ビジネス教育の会社を創業しました

前回の更新から半年が経過してしまいました。

こちらのブログでは、主にキャリアとビジネスについて書いてきましたが(タイトルに含まれるテクノロジーには最近あまり触れていませんでした)、この夏にビジネス教育の会社を創業し、ブログはそちらで継続していますのでお知らせします。

www.principles.jp


企業ページ内のブログなのでいろいろと殺風景ではあるのですが、引き続きキャリア、教育、ビジネス、テクノロジーについて書いていきたいと思っています。是非、そちらもご覧いただけますと嬉しいです!

仕事と就活の原理原則(2)~会社が見ていることは3つある

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Q:「この会社にはこんな話をするとウケがいい」「多数のOBOG訪問をすると内定に有利」など、就活にはいろいろな噂がありますが、何が本当なのかよくわかりません。会社は、何を見て採否を判断しているのでしょうか。

A:会社は、3つのことを見ています。

総合商社でされた質問

さて、また私の昔話。ある総合商社の面接で、「あなたは、営業、企画、調査のどれに向いていると思いますか?」と質問されたことがあります。

考えたこともない質問で(それは、OBOG訪問を大してしていなかった当時の私が悪いのですが)、うーんと考えた後、「どれもできると思います!」と威勢よく答えたのは良かったものの、その理由をうまく説明できず、面接官のおじさまは困ったような顔をして次の質問へ。そして、あえなく私は次の面接に進めなかったのでした。(こうやって思い返すと、どうも私の就職活動は今の若い方と比べるとかなり準備不足で失敗ばかりだったようです…)

さて、この面接官は何を聞きたかったのか。私は、企業が面接で確認したいことは、シンプルに整理すれば3つしかないと思います。

その1:あなたに当社で活躍する能力や資質があるか?

当たり前ですが、対価をいただく分、仕事ではアウトプットを出さなければなりません。仕事は一人ではできませんが、さりとて自走できなければそれはそれで仕事になりませんので、その業界、さらに言えば特定の職種(営業、企画、経理など)が求める仕事をこなす能力や資質があるか?が大きなポイントになります。

業界によって求める能力・資質は違います。金融機関では数字が(ある程度は)扱えないと困るでしょうし、海運会社なら英語ができた方が有利でしょう。業界による違いもさることながら、職種による違いも非常に大きいものです。営業であれば、コミュニケーションをとることが好き(少なくとも嫌いではない)である必要があるでしょうし、法務は論理的思考力が高い人でなければ務まりません(日本企業への新卒就職活動が「就社」の構造になっているという事情はあるものの、学生さんは「職種」の重要性を理解していないことが多いです)。

その2:あなたは当社の社員とうまくやっていけるか?

これは、能力・資質よりもフワッとした要素ですが、非常に重要です。

会社には、カルチャー・社風が必ずあります。会社のカルチャーとは、「何を良しとするか」で決まります。スピードを重視するのか、間違いがないことが重要なのか。仕事が終わったらサッサと帰る職場か、飲み会が多い職場か。朝、始業時間ギリギリに出社すると怒られるか、そもそも始業時間が存在しないか。大きなことから些細なことまで、会社には数多くの「何を良しとするか」があります。

カルチャーには仕事上の必要性から来る要素も多く含まれますが、会社も人の集まりですので、その会社というコミュニティの人と合うか、という要素も大いにあります。やはり、体育会的なカルチャーの会社には、そのカルチャーが好きな人が合うのです(私は、残念ながらそのような会社には合いません)。

その3:あなたは当社に入社してくれるか(そして、長く働いてくれそうか)

その1とその2をクリアすれば、会社はあなたに入社して欲しいと思います。しかし、内定を出しても、あなたは入社してくれないかもしれない。さらに欲を言えば、入社してもすぐに辞めてしまうかもしれない。それでは、人事は困ります。

採用には、「できる人を採ればいいのか、志望の強い人を採ればいいのか」という古典的な問題があり、できる人を口説き落として入ってもらった方がいい、という考え方もあります(経営的にはこの発想が正しいと思います)。が、基本は、入りたいと言ってくれる人に来て欲しいのが採用する側の気持ちですし、口説かなくても来てくれるなら採用予定数が稼げて楽です。というわけで、やはり会社の仕事やカルチャーをそれなりに理解していて、やりたい!と言ってくれるかどうかを、会社は見ています。

ESや面接の質問の裏には、このどれか(複数可)の意図が必ずある

さて、ここで冒頭の「営業か、企画か、調査か」の質問に戻ってみましょう。これは、何を聞きたかった質問でしょうか。私は以下のように推測しています。

  • 本当に、私が志望する仕事を知りたかった(確率1%)
  • ちゃんと足でOBOG訪問をして仕事のイメージが沸いているか、志望度を確かめたかった(確率1%)
  • 質問はただの呼び水で、私の答えとエピソードを通じて私のキャラクターを知りたかった(確率88%)
  • 普段は営業をしていて面接に不慣れなので、とりあえず手元の質問例を読んでみた(確率10%)

この質問をされたのはまだ一次面接でしたから、私のキャラクターを知りたかった、つまり、その1とその2に対応する質問だったと思います。「私は、○○に向いていると思います。なぜなら、××という性格で、△△が好きだからです。例えば、サークルで□□という状況で、◇◇という困難を、◎◎と工夫して☆☆に成功しました。このように、私は△△が好きで、△△が求められる○○に向いているのではないかと思います(でも、御社の▽▽さんのお話しを伺って、○○以外の★★という仕事にも興味があります)」という答えが模範回答です。「えっと、どれもできると思います。何となく」という当時の私の答えは、相手の知りたいポイントに何も答えていないのでゼロ点です(笑)。

また、OBOG訪問が有利か、という質問については、志望度を測るために、熱心なOBOG訪問をカウントする会社があっても不思議ではないでしょう。しかし、そのような会社があったとしても、数を打てばいいかは微妙でしょう。社員は、訪問内容を人事にレポートするはずですから、内容がイマイチであればマイナスの評価がついてしまいます。実りあるお話しを伺うためには、それなりに準備が必要なものです。

あと、会社はこれら3つをどれも見ています。「これまでの面接では、準備が不十分な志望動機は聞かれなかったけど、自分のエピソードはばっちりアピールできて良かった!」と思ったら、最終面接で志望動機ばかり聞かれるということは十分にあり得ます。志望度の高い会社には、きちんと3つともアピールできるように準備しましょう。

まとめ

  • 会社が見ているのは、あなたに当社で活躍する能力や資質があるか、あなたは当社の社員とうまくやっていけるか、あなたは当社に入社してくれるか(そして、長く働いてくれそうか)の3つ。
  • ESや質問の裏には、これら3つを確かめたいという意図が必ずある。
  • 会社は3つを全部見る。一部ではないので、足りないところがあったらちゃんと準備しよう。

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Photo credit: Colin_K via VisualHunt / CC BY

仕事と就活の原理原則(1)〜就活は営業である

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Q:これまでいくつか面接を受けたのですが、うまく自分のことを話せたと思った面接でも、落とされることがよくあります。なぜでしょうか。

A:面接は、等身大のあなたを「説明して理解してもらう」場ではなく、あなたが企業が欲しがる人材であることを「営業する」場です。「自分のことを話す」のではなく、「相手が聞きたいことを話す」という姿勢で臨みましょう。

ここ2年ほど、週末を中心に就活中の学生さんの相談に乗っています(東大、慶応の方が多い)。私は人事の経験はありませんが、企業の意思決定の現場で働いており、また「仕事ができるとはどういうことか」「自分に合った仕事とはどんな仕事か」というテーマをずっと考えてきました。そこで、「仕事と就活の原理原則」と題して、私なりの就活アドバイスを連載していきたいと思います。お役に立てば幸いです。

私がマッキンゼーの面接で言われたこと

さて、いきなりですが、私の思い出話。私は、新卒の就活でマッキンゼーを受け、あえなく何人かパートナーに面談をいただいた後に落ちました(残念です!)。その時、一番最後に面談をいただいたパートナーの方から、面談の最後に以下のようなことをいただいたことを今でもよく覚えています。

マ「面接は、あなたを売り込んで下さい、という非常にわかりやすい営業の場だよね。何かアピールしたいことはある?」
私「・・・特にありません。」

・・・今思い返すと、なんてダメなやり取りなんだろうと思いますが(苦笑)、当時の私が就職活動のことをよくわかっていなかったことをよく表すエピソードです。

就職活動とは、営業である

さて、上記のエピソードで既に触れいますが、就職活動とは「自分を営業する場」です。会社は、儲けるために事業をしており、自社で活躍してくれる人材を求めています。つまり、会社には「欲しい人材の要件」がはっきりあり(もしくは、本来ははっきりあるはずであり…)、その要件に合う人を探していると言えます。

よく、学生さんには、自分のアルバイトを思い浮かべて下さい、とお話しします。自分が一生懸命やってきたアルバイトで、新しく自分が人を採用できるとしたら、どんな人を採用しますか?もしくは、どんな人は採用しませんか?居酒屋であれば、元気が良くて明るい人を採用したいと思うでしょうし、見るからに暗そうな人はあまり採りたくないはずです。それと全く同じことを企業も考えている、とお話しすると、多くの学生さんが納得してくれます。

営業の秘訣は、まず相手が何を欲しているか知ること

ところで、営業で一番大事なことは何でしょうか。それは、自社の商品を朗々と説明することでも、カッコよくプレゼンテーションをすることでもありません。営業で一番重要なことは、相手の話をよく聴き、ニーズを深く知ることです。これは、法人ビジネス歴10年の私が自信を持って言えることです(笑)。「最近、子どもが生まれたからそろそろ車が欲しいかなあ…」という顧客のニーズを把握していれば、ファミリー向けの車を提案し買ってもらうことは難しいことではありません。しかし、顧客のニーズを把握せずに、2人乗りのスポーツカーを提案しても売れませんよね。

会社の採用も同じです。就職活動では、会社の採用ニーズを把握した上で、自分が会社の求める人物であることを売り込む。これが鉄則です。自分の話したいように話して、「ああよく自分のことを話せた」というのは、相手の顔を見ずに商品の説明をひたすらするセールスマンと同じで、営業ではありません。

「ありのまま戦略」はあなたの良さを伝えきれないリスクがあるので勧めない

よく、「面接ではありのままの自分をしっかりと表現しましょう」というコメントがあります。これは、「学生さんが自分のことをしっかりと表現してくれれば、自社に合うかどうか面接官が判断してマッチングができるので、お互いに良いよね」という意味ですが、現実にこれを鵜呑みにするのは危険だと私は思います。

もしも、自分のすべてを会社に伝えることができるなら、「ありのまま戦略」は会社にとっても候補者にとってもハッピーだと思います。しかし、実際にはエントリー・シートで伝えられる内容や面接の時間は限られており、候補者は自分のごく一部しか伝えることができません。また、面接官のスキルはバラバラで、限られた時間の断片的な情報から候補者を適切に判断できるとは限りません。したがって、「ありのまま戦略」では、あなたの実像が会社に断片的にしか伝わらず、本当は会社が求める資質をあなたが持っていたとしても、落とされるリスクが大いにあります。これは、大変もったいないことです。

私の例で言えば、私が学生時代に努力し想い出深いことのひとつに、「政治思想のゼミで試行錯誤の末に良い発表ができた」ことがあります。しかし、このエピソードは企業にはまったくウケませんでした(笑)。このエピソードは、私の「深く考えることが好き」というキャラクターを表してはいますが、企業が求める人材像にはあまり合わなかったわけです。しかし、私の特徴はこれだけではありませんから、企業に対しては、私の別の側面をアピールした方が良かったと言えます。

というわけで、私はやはり就職活動は営業だと割り切って、嘘を付かない範囲で相手に合った自分を見せる努力をするのが良いと思います。この考え方には、他にも良い点があります。ひとつは、会社のニーズを知るために会社のことをしっかりと調べなければならないこと(面接の場で、面接官にヒアリングから入るのは難しい)。もうひとつは、結果が不合格だった場合に、どこが悪かったのか反省し次に生かしやすいことです。「自分を表現したけど不合格だった、この会社とは合わなかったんだな」では、「合わなかったから仕方がない」で終わってしまいます。しかし、営業と割り切ってトライすれば、相手への理解が足りなかったのか、伝えるべき自分の特徴やエピソードの選択を誤ったのか、自分の伝え方が悪かったのか、伝えるべきことは伝えたが自分の資質が相手の要求水準に達していなかったのか、反省し次につなげることができます。就職活動を通じて、多いに成長することができるでしょう。

ただし、これは「嘘をついてでも自分を見繕って内定をもらった方が良い」という話ではありません。嘘は会社にばれますし、何よりも嘘をつかないと内定を得られないような会社はあなたに合っていない会社です。入社した後に苦労しますから、自分のためにも、会社のためにもなりません。

さて、うまく営業して内定をもらう頃には、自分がどの仕事に就くべきか決断をしなければなりません。これは、営業とはまったく別の話ですので、また機会を改めて書きたいと思います。

まとめ

  • 面接は、あなたが会社の求めている人材であることを売り込む場、それを忘れない!
  • 「ありのまま戦略」は、自分を伝えきれずに不合格となるリスクがある。内定をもらうまでは、就職活動は営業と割り切る。
  • ただし、嘘をつかないと内定をもらえない企業は、あなたに合っていない。入社してもあとであなたが不幸になるので要注意。


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三度、仕事ができるようになるとはどういうことか

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Original: Camera Eye Photography / Flickr

以前、仕事ができるようになるとはどういうことか、というエントリーを2回ポストしましたが、このテーマについての3回目を書いてみたいと思います。

仕事ができるようになるとはどういうことか(その2) - キャリア、教育、ビジネス、テクノロジー

仕事ができるようになるとはどういうことか - キャリア、教育、ビジネス、テクノロジー

きっかけは、先日の異動で以前所属していた部署に戻ったことです。古巣の仕事を思い出しながら、仕事ができるようになるとはどういうことなのかを再び考えていました。結論としては、私がやっているようなビジネス系の仕事には4つの重要な要素があると思います。

【1】その仕事に必要な考え方を理解している

私の仕事であれば、それは株価をどう評価するかについての理論的な理解であったり、企業が関連法令や規制にしたがって取引を行うとはどういうことかについての基本的な理解であったり、法人顧客に接する際の考え方や相手との間合いに関する感覚であったりします。

新しい仕事であれば、これはゼロから学ばねばなりませんが、経験のある仕事であれば、ブランクがあっても基本は覚えているものです。また、これらの考え方は「頭では」座学や学校でも教えられるものであり、特に理論として複雑で難しければ難しいほど、それは学校でまとまった時間をかけてしっかり勉強していないと実務で取り組みながら勉強したり教えるのはちょっとしんどいよねという話になるのかなと思います。

【2】仕事に必要なリソースやネットワークにアクセスがある

考え方がわかっていても、それを資料に落とすには、どこに「最近の」資料があるか知っていなければなりません(古い、自分が取り組んでいたころの資料などは時代遅れになっていたりするものです)。あるいは、社内外で人を動かすにも「誰に」「何を」話せばいいのか知っていなければなりません。

考え方さえわかっていて、周囲の協力が得られれば、会社としてリソースやネットワークにアクセスはあるわけですから、これらに自分がキャッチアップするのはそれほど難しくありません。しかし、仮に自分が新しいことをやろうとしていて、自分の組織にこれらへのアクセスがないとすると、これは結構骨が折れます。

【3】必要なことを実際に実行することができる

考え方がわかり、リソースへのアクセスがあれば、「手を動かす」ことができれば、考えを必要な形に変えることができます。

実行に落とし込めるとは現場で働ける(役に立つ)ということと同義で、手の動かないマネジメントになりきってしまうとここから手の動かせる人に戻るのは大変です。どこまで手を動かすことが求められるかは、組織やポジションにより異なりますが、一般論として日本企業は手の動かないシニアが多すぎるかもしれません。

【4】自分が伝えたことを相手がどのように感じ受け止めるかを理解している

最後になりますが、実行をやり切るには「相手がどのように感じ受け止めるか」を、ある程度理解する必要があります。これは、当たり前ですが非常に大事な点で、結局私が昔の仕事に戻って周囲の人に一番聞いてまわっていることは、「あの人にこういう説明をして深さとしてはこれぐらいで十分だっけ」とか、「このお客さんはどういう人ですか」とか、そんなことばっかりです。

仕事ができるようになるとは、という視点で書いてみましたが…

これらは、「仕事ができるようになるとは」という視点で書いてみましたが、ある仕事やビジネスを軌道に乗せる上で重要なことに対応しており、人と組織の問題を分析する際にもシンプルで役立つのではないかと思っています。それぞれの要素が広範な要素を含みうるので、万人ウケするフレームワークではないと思いますが。四番目の「どのように受け止められるか」というポイントは、人に相対するたいがいのビジネス系の仕事であれば当てはまると思いますが、サイエンスや研究にちかい世界では、「実際にあることを実行した際に、どのような結果が生じるかをビビッドにイメージできるか」「その研究のコミュニティで、何が価値があり評価されるかを本質的に理解しているか」などと言い換えて良いのかと思います。ただ、普通の会社や組織で働く研究職や開発職以外の人は、たいがいがこの原則で考えられるのではないかと思います。

新卒の就職活動についてあれこれ

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Original: Flickr/studio tdes

MBAの採用プロセスと日本の新卒採用プロセスを比較するエントリを書いたのですが、95%ぐらい書いたところで子どもが泣いたのでパソコンを離れている間に消えてしまいました!もう一度書く気力が湧いてこないので、結論だけ書いてもあまり皆さんの腑に落ちないと思うのですが、忘れないうちに結論だけ書いておきます。

就職を考えはじめてから納得して就職を決めるまでには正味1年ぐらいはかかる。このプロセスに必要な時間は変わらないので、このプロセスを学生生活のどこに置いたらよいかを考えるべき

MBAの場合、前職のキャリアがあって、MBA出願のプロセスでMBA後のキャリアについて考えさせられますが、さらにそれに加えて、シカゴの場合は学校が9月に始まった後もう一度キャリアについて学校で考える機会があり、10月後半からオンキャンパスのインターンのリクルーティングがはじまり、年明け1月からインタビューが始まって、それなりの数の人は3月までにインターンのインタビューを終えます。インターンに至るまでの就職活動のプロセスに、正味1年ぐらい考えて行動する期間があると言えるでしょう。感覚的には、日本の新卒でも就職活動に正味で要する期間はそれほど変わりません。今年の日本の新卒マーケットの変更は、就職活動のタイミングを「遅くする」ことでしたが、やることは同じでタイミングをずらしただけなので、ずらした後に他の学校行事があればバッティングすることになります。結局、学生生活のどこかで1年間ぐらいは就職のことを考えて行動する時期が必要なのであれば、それを学業と両立しやすいようにどう配置するかという、解くべきはタイミングの問題ということになります(インターンの活用といった話はまた別の話)。

人気があって多数を採用する業界から順番に選考をするのが、学生にとっても企業にとっても合理的

MBAのリクルーティングでは、採用活動は業界単位で緩やかに順番があり、まず人気が高く人数も採るコンサルティング投資銀行が説明会や選考を行います。それに続いて、他の事業会社が採用活動を行い、最後の方でごく少数しか採用しないPEファンド、VC、スタートアップなどが採用をするイメージ。このプロセスのポイントは、「本命」が後に来にくいので、学生の側が後から「意中の企業から後オファーをもらえたのでやっぱりやめた」とか、「あの業界・企業にトライするまでは就職活動はやめられない」という状態になりにくいことです。この点、日本の今年の採用は、実質的に多くの企業が7月以前に選考を進める中、いま学生から最も人気のある総合商社が8月1日から選考する形となり、この点最悪だったと言えるでしょう。商社に通ったので内定もらっていた会社を辞退する、商社を受けてみるまで就職活動を終えられない、こういう話になることは当然です。これは、学生にとっても、企業にとってもよくありません。双方にとって、人気があって多数を採用する業界から先に選考を始める方が幸せになります。外資は3年生の秋から選考を始めるという現実があるのですから、商社は3年生の冬ぐらいにさっさと選考し、その他の会社はその後に採用をすれば良いと思います。

一時に集中して採用活動をするのではなく、適度に分散し、内定の回答にも余裕がなければ、企業間の本質的な競争にならない

現在の新卒の就活では、自社に囲い込むために、8月1日に拘束する、他社の面接とぶつける、といったことが行われます。これが可能なのは面接期間が集中しているからで、企業の立場にたてばそうしたくなる気持ちもわかりますが、学生にとっては一生がかかっているのですから、このやり方はフェアではありません。MBA採用の場合、業界ごとに緩やかに採用の時期はありますが、基本的には面接が重複するほど過密ではありません。また、オファーを受けた後これを受諾するまでは1〜2ヶ月程度時間があることが普通です(事情を説明すればもっと長いこともよくあります)。こうすることで、学生はしっかりと納得行ってから就職先を決めますし、企業間でもこれは学生に選ばれるための本質的な競争を行うことになります(囲い込みの工夫を企業が行うことは、ただの戦術的な競争で、本質的に企業が自社の魅力で競争していることにはなりません)。もしも囲い込みをやめたら、今まで囲いこんできたような優秀な学生がとれないというならば、それは自社の魅力が足りないか、アピールに問題があるか、どちらかでしょう。あるいは、同じような学生を多数の会社がポテンシャル採用で争う構造が問題の根っこかもしれませんが、それはまた別の話。

MBAでは学校がオンキャンパスのリクルーティングを取り仕切り、企業へ影響力を発揮する

これは、直接に日本の就活で活かすのは難しいかもしれませんが、MBAでは学校がオンキャンパスのリクルーティングを取り仕切り、企業がいつどのように学生にアプローチするかをかなりコントロールしています。同時に、学校は企業に対して学生を真摯に行動させるオブリゲーションを負っており、学生が一度受諾したオファーを後から辞退した場合は、その学生を学校の卒業生として扱わないというペナルティを課します。これは、卒業できなくなるということではありませんが、大学のコミュニティが大事にされる米国ではそれなりに嫌なペナルティで、学校のオンキャンパスのリクルーティングで一度受諾した内定を反故にする人はあまりいません。

日本の場合、大学がここまでリーダーシップを発揮できればよいですが、この仕組を行うには大学が企業にも学生にもメリットを提供できる形でリクルーティングを取り仕切る意思が必要となり、かなり難しいのではないかと思います。学校や専攻によって学事スケジュールは異なるので、究極的に学事スケジュールと就職活動のバッティングをコントロールしようと思ったらここまでやらないといけないと思いますが。ただ、内定辞退の問題についていえば、人気の企業から先に採用活動をする、一時期に集中せずに内定の返事を受ける期間を長めにとる、という手当をすれば、理屈としては減っていくのではないかと思います。

結論

上記のように考えると、10月までに内定者を揃えたいという会社の前提条件をそのままにするのであれば、3年生の秋から4年生の秋まで、基本的には人気のある業界・会社から先行して、各社自由なタイミングで選考したら良いのではないかと思います。本当は、学校が学部ごとに自分たちの事情に合わせてリクルーティングのスケジュールをコントロールするか、せめて学校が自分たちの事情を企業に提供し、企業がその事情を斟酌して学校ごとに採用活動のスケジュールを引くようになると、本当は良いのだと思いますけどね。

仕事を何年かすると誰でも慣れて飽きる、次はどうする?

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Original: Flickr/GotCredit

以前、印象深い投稿を見たので、久しぶりにキャリアの話をポストするでござる。

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最近(というわけでもないのだが)、こんなスペックの方から、キャリア相談受けます。
・20台後半〜30台くらい
・ネット業界、ビジネス系
・オペレーションはかなりできる。マネージャーで部下をマネージもできる。
・採用もできる
・新しいことにチャレンジしたいけど、自分で起業する程ではない
・日本で数人のアーリーステージのスタートアップに入るのは(年齢的に、あるいは家庭があったりで)怖い
・かと言って、50-100人くらいの上場前後の会社に入ると、今やっていることを繰り返すだけなのでつまらなさそう
要は、今の仕事ももちろん楽しいけど、キャリアに行き詰まりを感じる、このまま出世してもたかが知れてる、という相談です。
(「このまま出世してもたかが知れてる」というのは、本人がそう言う場合が多くて、実際にはそんなことないんじゃないかなぁとも思うのですが、まぁ本人がそう感じてるということですね。)

私が考えるキャリアの原理原則の一つに、「一つの仕事を真面目に5年ぐらいやると、その仕事をしっかりこなせるようになるが人は飽きる」ということがあります。もちろん、仕事の難しさや深さにもよりますが、そこそこの能力のある人が5年間一生懸命やれば、その領域について「目をつぶっていてもしっかりこなせる(?)」域に達することはそれほど難しいことではないと思います。

で、このポストを読んで「ああやっぱり」と思ったのは、動きが早いと言われるインターネットの業界でも、この原理原則は当てはまるんやなあということです。

で、曲者なのは、「しっかりこなせる」ようになった後にどうするかということです。選択肢は、いくつかあります。

  • 新しいフィールドに移る。新しい職種に挑戦する、高位のマネジメントを目指す、新しい製品・サービスを担当する、新しいマーケットを担当する、新しい国に移ってみる。これまでの経験が生きて、ニーズがある分野に移ることができれば、キャリアとしては美しいし世の中のためにもなります。ただ、「相手」のいる話でもあるので良い機会を実現するにはご縁が必要。

  • 今やっている仕事で第一人者・プロフェショナルを目指す。目をつぶってもしっかり仕事ができるのは、その分野で名が通って社外からも声がかかる第一人者になるということとは違います。仕事がそこそこできる人はゴマンといますが、第一人者は少ないので、第一人者まで行くと見えてくる景色も違いますしキャリアとしても盤石なものになります。ただ、この道を究めるという覚悟が必要。
  • 今の仕事をベースに、(社内でも社外でも)理想とリーダーシップを持って自分で新しい地平を開く。渡された予算を実現するとかわかりやすい問題を戦力としてハキハキ処理することと、自ら困難な目標を打ち立てて新しい取り組みをすることはまったく異なります。組織や世の中に対して発揮するバリューも違うし、自分の器も一段高いステージに。ただ、自ら理想と目標を描く必要があります。

ここでポイントとなるのは、仕事がそこそこできるようになった後のステージに進むには、自らの強い意思かめぐり合わせかどちらかが必要で、容易なことではない、ということです。また、会社(日本企業では人事)は自分の想いとは別の思惑を持っていたりそもそも思惑を持っていなかったりするので、次のステージに進めるかどうかを組織任せ、運任せにしたくなかったら、自分で意思を持って行動しなければなりません。ただ「あーこの仕事はもう飽きたー」とぶつぶつ言っていても、報酬が良くて楽しくて充実感も感じられる次の仕事がまわってくる確率は高くないですよ、というお話。楽で美味しい話は、そんなに世の中転がっていないんだなあとしみじみ思う三十路です。

第四の選択肢として、今の仕事をきっちりとほどほどにストレスなく続ける、という選択肢ももちろんあります。ただし注意点は、この選択肢にはリスクがあり、慣れた仕事で成果も上げてプライベートの時間もとれてよかったよかったとなれば現代的理想で素晴らしいのですが、気が付くと「自分が知っている仕事しかできず幅の狭い窓際のオッサン(男性の場合)」になってしまう危険もはらんでいます。特に、世の中のトレンドで自分がやっている仕事が陳腐化したり所属している会社が潰れたりするとこの危険があります。もちろん、所属している業界や(大)企業によっては、理想のパターンで人生を終えられるを可能性もありますが、楽すると将来苦労する可能性がある、努力とリターンというのは長い人生で見ると釣り合っているんだなあとしみじみ思う、三十路です。

ギリシャ問題あれこれ

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お久しぶりです。現在、ロンドンでギリシャ国民投票の結果をBBCで見ております。

地道に正しいことに取り組むプロフェッショナルたどれだけいるか

さて、ギリシャの問題がこの一週間で急展開した時に、私がまず思い浮かべたのは、ギリシャがいかに借金漬けの国かを力説されていたシカゴ大学のカシャップ先生は何か言っとらんかなということでした。

で、検索してみたら、出してました、カシャップ先生によるギリシャ問題の解説。

A Comprehensive Summary of the Greek Crisis | IGM Forum

授業と同じ、文字ベタ打ちのPDFでありますが、そもそも何でギリシャが借金まみれになったのかから丁寧に書き起こしており、大変参考になります。これを読むと、ギリシャ問題を理解するためにはギリシャだけでなくユーロの制度的な問題や、IMF、ECBといったプレイヤーの思惑も理解する必要があることがわかります。

ギリシャ問題は一例なのですが、私が米国で感じたことのひとつに、研究者の層の厚さがあります。英語圏にはびっくりするほどきちんとした研究者がたくさんいるので、大概の問題について、きちんと過去から継続してフォローをしていて、事実を整理し意見を発信する人がいます。

彼らは別に天才ではなく(多くは大変な秀才だとは思いますが)、きちんとファクトを積み上げて分析して今後のことを考えるというプロとして当たり前のことをしているだけです。が、そのようなまっとうなプロがパブリックに意見を発信するぐらいたくさんいるということが、英語圏の強さなんだなと思います。

日本にも、日銀や財務省には結構シリアスにギリシャ問題を追っている人がいるんじゃないかなと思うのですが、そういったプロの意見が組織の秘密にされすぎずに世の中に発信される(あるいは、彼らが仕事上世の中に発信できないことはわかるので、そういう役割を担うプロが外にいる)ということが、世の中を正しい方向に進めていく上では結構大事なんじゃないかなと思う次第です。

ヨーロッパの未来

んで、ギリシャ問題の今後なわけですが、世の中で言われていることですとギリシャはユーロ圏脱退に向けて進んでいきそうです。(注:結局、ギリシャは離脱しませんでした!)ひとつの考え方は、ギリシャがユーロを離脱できれば、短期的には経済はめちゃくちゃになるし国民の預金は政府にぶん取られるしで大変ですが、ドラクマは大変安くなり、円安が日本の輸出を(多少)回復させインバウンド観光を増加させているのと同じように、ギリシャはいずれ経済の回復軌道に乗るかもしれません。

が、問題はその先です。ギリシャが無事にユーロを脱することができると、あれ、実はユーロって脱することができて、しかも苦しみを経た後はわりとうまくやってけるんだ、という先例になります。すると、今の強いユーロに苦しめられている経済の弱い国々はPIGSギリシャ以外(ポルトガル、イタリア、スペイン)など多々あるわけで、この人たちはどうするんだっけという議論が起きるでしょう。

私の記憶が正しければ、EUはヨーロッパの大戦の反省がベースになって統合を志したところにまずはベースがあったはずです(だから、ユーロは経済制度の面では無理があるにも関わらず、拡大してきた)。しかし、EUにはいろいろと制度面の無理があり、例えばドイツはEUで相対的に自国の強さより安い通貨と輸出先の市場を確保して繁栄し、一方で経済の弱い国々は自国の実力に比べて相対的に強いユーロに苦しめられしかもドイツの輸出先となってますます苦境に陥っています。志だけでは経済的な無理を支えられず、ユーロの分解が今回のギリシャから始まるとしたら…。ヨーロッパはEUの統合と深化を進めることで経済的成長を維持しプレゼンスの確保を目指してきましたが、ギリシャ問題を通じて、ヨーロッパの黄昏はその時計の針をまた一歩進めていると言えるかもしれません。