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企業買収ファンドの儲けと価値(2)、株の本質

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前回に引き続き、バイアウトファンドについてです(今回の投稿は時間の関係から言葉を噛みくだずに書いているので、馴染みのない方にはわかりづらいかもしれません、すいません)。「会社を安く買って価値を付けて高く売る」とはどういうことなのか。私が、いろいろなPE投資家の話を聞き、シカゴ大学の看板教授であるKaplan教授からPEについて学んだことをまとめると、バイアウトの儲けは3つの要素に集約されます。

レバレッジアービトラージ

1980年代の第一次PEブームの時代、アメリカの産業界は今とは少し違ったようです。PE業界の人々の言葉を借りれば、「あの頃は、ずさんな経営の会社も多かったし、資本政策が非効率な企業も多かった」。業界に金字塔を打ち立てたRJRナビスコの買収劇でも、RJRナビスコがやたらたくさんプライベートジェットを保有していたという描写が出てきます。

さて、このような会社に乗り込んでPEファンドは何をしたかというと、レバレッジをかけて株価を上げました。ファイナンス的には、エクイティコスト(資本コスト)は負債コストよりも高いので、借入れを増やしてギアをかければエクイティ投資家の収益率は高くなります。さらに、借入れを増やすと金融機関に利子やら元本やらを払う必要があり、足元からキャッシュが出て行くので、経営陣も無駄なことができず、経営に規律がもたらされ、不要な資産は売り払いせっせと仕事に励むようになります。

しかし、このファイナンス手法による儲けの方法は、手法がコモディティ化するにつれて競争力を失い、また1990年代に米国企業の経営や資本政策が現代化した(1980年代に比べてかなり改善された)結果、レバレッジからPE ファンドが収益をあげることは難しくなりました。

マルチプルアービトラージ

1990年代には、PEファンドはマルチプルアービトラージにより儲けました。市場で割安に放置されている株や、シクリカルに割安な企業を買収し、マルチプルが高くなったタイミングで売る手法です。また、小規模で割安に評価されている企業を買収し、企業規模が大きくなってマルチプルが改善したところで売却するという手法もこれに該当します。しかし、市場の効率化が1990年代を通じて進んだ結果、この手法で収益を上げるのも難しくなっていきました。

オペレーション改善

そして、2000年代以降の現在においては、オペレーション改善によるリターンの確保が主流になっています。これはまさに、正面から企業の売上を増やしコストを下げて利益の厚い筋肉質な体質を目指す王道の考え方です。グローバル化の遅れている企業にグローバル化のサポートを提供して成長を目指すのも一手法です。これらを実現するために、コンサルティングや企業経営の経験者など、多様な人材がPEファンドには参画しています。しかし、投資先のオペレーションを改善するのは実際には難易度が高く、これをやりきれるPEファンドとそうでないファンドの差は開いているようです。

米国でPE業界の関係者の話を聞くと、皆が口を揃えて米国ではPEはすでに成熟した業界であると言います。PEで「美味しい」機会を見つけて利益を上げるチャンスが減ったので、それでもファンドとして成長を維持するために資産運用やアドバイザリーサービスといった分野に大手PEは進出していますが、投資効率が下がるため必ずしも投資家から歓迎はされていないようです。

バイアウトファンドは社会のためになっているのか

さて、バイアウトファンドが何で「儲け」ているかを3つの要素に分けて書きましたが、ではバイアウトファンドは社会の役に立っているのでしょうか。ひとつの見方として、まずい経営の企業に滞留しているお金を、バイアウトファンドはレバレッジといった手法で社会に吐き出し、また彼らが儲けたお金も別の投資機会を求めて動き出すので、社会の資金配分を正しているという言い方ができそうです。また、バイアウトファンドの存在自体が企業経営に規律をもたらしている(狙われないように、ちゃんと経営しないといけないというインセンティブが働く)という要素もあるかもしれません。公開企業であることのメリットが昔より薄れ、むしろ公開企業であることのコストが強調され、特に会社がドラスティックに変化しなければ行けない時は変化の意思を(多少)長い目で共有できるバイアウトファンドと組んだ方が公開企業のままより良い、そのように考える経営者も実際いるようです。バイアウトファンドが本当に経営や会社の改善に役立っているのか、というのは米国でもかなり議論があるようですが、Kaplan教授は自身の最新の論文で「バイアウトファンドは雇用を生み出している」という議論を展開していました(余談ですが、あれだけ教えことに情熱を持ち時間をかけていて、しかも多くの研究論文も公刊していて、Kaplan教授は鉄人だと思いました)。議論はあるし、難しさや非情な一面もあるけれども、存在意義はあるし世の中の役にも立っているような気がするよね、というのがアメリアにおけるPEの立ち位置のような気がします。

レバレッジで儲けることへの違和感と株の本質

さて、最後に大きな余談です。レバレッジについて、負債はエクイティよりもコストが低いので負債を増やすとエクイティにギアがかかってエクイティ投資家の儲けが増える、というのは、数字の上では正しくて、エクセルの上でも正しいのですが、個人的にはやっぱり借入れを増やして現金が会社から流出していくことが会社の価値を上げることにつながる、という論法は自分はどうも腑に落ちていませんでした。おそらく、企業買収ファンドをハゲタカと呼ぶ人が感じているだろう違和感と同じ違和感を私も感じていました。

しかし、最近、この論法は(会社がストレスを抱えすぎて潰れない限りは)確かに正しいのだなと思うようになりました。レバレッジの論法に感覚的に違和感を感じる一番の理由は、エクイティはキャッシュを流出させないが借入れはキャッシュを流出させるというところにあると思います。キャッシュは目に見えるから、借入れを増やしてキャッシュがどんどん出て行くのは何だか痛く感じます。でも、投資家の立場に立てば、貸付けよりも株式に高いリターンを求めるのは当然で、これは誰も異論がないはずです。株式が高いリターンを出すとはどういうことかといえば、要するに株価を上げる、レバレッジに依らないのであればとにかくEPSを上げていくということに尽きます。経営者は、投資家の期待に応えるためには、株価とEPSを永遠に上げ続ける必要があります。

これは、もの凄く大変なことで、株式会社は(少なくとも株式を公開している限りは)このロジックから逃げられません。しかし、株価を上げなくていいやと思ったら、その瞬間に株は借入れよりも安い調達手段になります。そして、「エクイティはキャッシュを流出させないから、何となく心地良い」と思うことは、株価を上げなくていいやと思っていることと同じです。しかしこれは、私は株主に対する裏切りだと思うし、現代の資本主義を支える基本的なメカニズムのひとつである株式と負債の役割分担を否定していることになると思います。

アメリカの株のニュースを眺めていると、リーマンショック後の最高値を更新というニュースが出てきます。どうしても高値高値というとバブルにイメージがあり、私はこれまでは「株価が永遠に上がることなどない」と感覚的に思っていました。しかし、アメリカ企業が株式会社の論理を愚直に受け入れて株価とEPSを上げ続ける努力をしているとしたらどうか。理論的には、株価が中長期的に高値を更新し続けるのは何も不思議なことではないと思うようになりました。短期的にファンダメンタルから乖離した急騰はもちろんバブルですが、長い目でみれば株が株として機能していれば株価は高値を更新し続けるはず、、です。そして、一社の事業が時代の移り変わりでいずれダメになっても、そこから退避した資金は次の成長企業を追い求め、そして次の成長企業がまた株価の高値更新を目指し続けて努力する。そして、ポートフォリオ全体として成長を目指して行く。これが、アメリカのダイナミズムなのだろうなと、株価だけでなく、アメリカのIT業界やアメリカ人のビジネスに対するアグレッシブな姿勢を見ていて思うようになりました。これはアメリカ人の欲深さから来るのか、ビジネススクールで毎年何千人何万人に資本主義を教えることを何十年もやってきたからなのかわかりませんが、アメリカ人は、「投資家はリスクをとって投資し、企業は常にリスクに見合うリターンをあげ投資家に報いるために努力する」という株の本質を理解しそのメカニズムの良い点を生かすように努力しているように思います。

翻ってみると、日本の株価は失われた20年の間ずっと低迷し続けていました。確かに、20年前のバブルはバブルでした。しかし、過去20年間の株価の低迷はそれだけが理由なのでしょうか。これは私のあくまで感覚的なものですが、日本では株の本質を理解していない人が多いような気がします。それが、ハゲタカというバイアウトファンドの一昔前の受容にも結びついていたのではないでしょうか。これから株に対する日本の受け止め方はどのように変わっていくか?それは誰にもわかりませんが、アメリカでも一昔前は非効率な経営や資本政策が多く行われていたが今は世界が変わってしまったということを考えると、日本でもバブル、バブル崩壊、そして最近の経済成長を目指す動きを踏まえて、株式に対する受け止め方が変わって行くということはあり得るように思います。

* Image courtesy of ddpavumba / FreeDigitalPhotos.net