MBAで印象に残った授業

f:id:career-mountains:20140603165750j:plain夏のシカゴをミシガン湖より。



MBAに関連する内容で、MBAで履修して良かったと思う授業について。卒業したら細かいことは間違いなく忘れてしまうので、 記憶のはっきりしているうちに書いてみます。

第6位:Entrepreneurial Finance and Private Equity

シカゴMBAの看板教授の一人であるKaplan教授が教える、起業家、ベンチャーキャピタリスト、プライベートエクイティファンド、年金投資家のそれぞれの立場から見て、投資をする時、受ける時に気をつけるべき点を体系的に学ぶ授業。

内容もさることながら、私はKaplan教授の「教え方」が勉強になりました。なるほど、ファイナンスや投資の理屈ってこういうふうにクラスで教えられるんだ、という。この授業のノートは今でもとってあり、見返すと先生の「授業運び」が頭に蘇ってきます。

ただ、期末試験の成績があまり良くなかったことだけは今でもあまり納得がいっていません(笑)。結構頑張ったんだけどなあ。

第5位:New Venture and Small Enterprise Lab

シカゴのスタートアップ企業に学生がチームを組んでコンサルティングをするというプロジェクト型の授業。顧客のスタートアップ企業にかなりクセがあり、一緒にプロジェクトをやったメンバーにもクセがあり、プロジェクト中はかなりストレスが溜りました。しかし、終わってみればプロジェクトのメンバーとも仲良くなり、スタートアップ「と」働くという意味でも学びがあり、良い経験になりました 。もう一度やりたいかと言われたら、やりたくないですが。こういうプロジェクト「体験」のカリキュラムは、どのMBAでも増えているので、最近のMBAっぽい経験と言えるかもしれません。

第4位:Data Mining

ビッグデータの授業。毎週新しいコンセプトを学び、そのコンセプトを使って実際にRという統計ソフトを使ってデータ分析して毎週レポートをグループで作成する、というプロセスをひたすら10週間繰り返します。アカデミックと数量分析を重んじるシカゴMBAならではの、渋さ満点の授業です。Linear Regressionぐらいなら私でも数式をフォローできますが、Model Selection、Trees、Text Miningとか言われるともう何とかプログラムをまわすだけで精いっぱいです。

私は統計を勉強したことがなかったのですが、Business Statisticsという初歩の統計の授業、Applied Regression Analysisという一歩進んだ統計の授業を経て、3つ目にこの授業を履修してやっと統計の考え方が何となくわかった気がします。そういう意味では、苦手ながら何とか頑張ってきた意味があったのかなとも思いますが、最終学期に履修したこの授業は統計が苦手な生徒4人でグループを組んだら毎週宿題が苦労の連続で、これまたもう一度やりたいかと言われたらやりたくないです。わからないメンバーで試行錯誤するからみんなでレベルアップできたという側面もありますが、とにかく大変でした。

第3位:Power and Influence in Organizations

組織における「権力と影響力」について学ぶ授業。この授業自体はそれほどスペシャルな感じはしないのですが、MBA初学期に履修したManaging in Organizationsという組織の心理学の授業、MBAの真ん中に履修したStrategies and Processes of Negotiationという交渉術の授業を経て、Behavioral Science(行動科学)を仕事にどう結びつけて使えるか、を自分なりに昇華することができたという意味で、この系統の授業をしつこくとって良かったなと思っています。

Behavioral Scienceの考え方を学んで強く思ったのは、一流の研究者は物事を見る上で役立つ概念を作る力や物事を体系的に整理する力が抜群に優れており、その「言葉」をうまく学ぶことができればリアルの世界でも価値が出せる、そしてその言葉を実証する努力がBehavioral Scienceの世界では強く行われているということです。この世界に一回どっぷりと浸かると、個人の経験談だけを語るようなビジネス書が薄く感じられるようになってしまいます。同じ系統のManagerial Decision MakingとAdvanced Negotiationsという授業も、時間があればとってみたかったです。

自分の学びを一言で表現すると、「ハーバードビジネスレビューをどういうふうに読んで現実に活かしたら良いかよく理解できた」という感じなのですが、すごく頭でっかちな感じがしますね(苦笑)。気をつけないと。

第2位:Understanding Central Banks

銀行論や日本経済が専門のKasyap教授が教える中央銀行の政策論の授業。といってもMBA向けなので、経済学の講義ではなく、経済学やファイナンスの基本的な考え方を援用しながら各国の中央銀行の政策決定過程や政策決定のクセを学んでいきます。

この授業では、中央銀行の世界の先端を理解することができたのが良かったです(先端の動きを私が100%理解できたのではなく、「何が先端か」を理解できた)。私はマクロ経済をしっかりと勉強したことがなく、現場で働いている時は日銀のニュースなどを見ながら「中央銀行の金融の専門家はもの凄く頭の良い人たちで複雑なマジック理論を使いこなして政策を動かしているに違いない」と、半ば本気で思っていたのですが、マクロ経済学の授業を履修した後にこの授業をとって、そんなマジックなんてないということが理解できました。この先生が、ここまでは経済学者や中央銀行の専門家が努力してみんなこういう理解をしている、ここから先はこんな考え方でみんな手探りでやっている、と説明するなら、そうなんだろうと。日本の経済に対する自分の見方も、この授業を履修し、これまでの自分のモヤモヤした考えと組み合わさることで、かなり確立されたと思います。

あと、Kasyap教授は実証データをうまくさばいて議論を組み立てるのが上手いので、なるほどそういうふうにデータを見せられるのねという意味でデータの使い方の勉強にもなりました。同じKasyap教授のThe Analytics of Financial Crisesという、金融危機について扱った授業も履修しましたが、個人的にはこちらの渋いUnderstanding Central Banksの方が印象に残っています。渋いので、履修している生徒の数は30人ぐらいでしたが。。。

第1位:Business Policy

これは、以前にもブログで触れたDavis教授の名物授業で、個人の生き方の戦略やクリエイティビティといったテーマについて考えていきます。この授業で「自分の人生が変わった!」なんていうことは特にないのですが(そういう人もいます)、教授歴50年で80歳を越える博識なDavis教授の教えることへのエネルギーがこの授業からはものすごく感じられます。

また、学期の終わり間際に教授の部屋を尋ねて一時間近く面談をしてもらったのもとても印象に残っています。教授の部屋は、学校の研究者フロアの奥の角部屋でした。80歳を越える教授は、マックとiPhoneを使いこなし(!)本棚には戦略から歴史まであらゆるジャンル(!!)の本が並び、さらに教授曰く「自分は、歳を重ねて学べば学ぶほど、ブックショップを訪れて書棚を眺めるたびに、自分には、まだこんなに知らない世界があると感じる」(!!!)とのこと。知的好奇心が旺盛すぎ、このような人を賢人と言うのだと思いました。他にもいろいろとお話を記したノートが手元にありますが、これは私だけの秘密です。年齢を考えるといつ引退されてもおかしくないのですが、出来る限り教えていただき、長生きしていただきたいです。

アカデミックかフワッとしたものか

こうやって振り返ってみると、会計、ファイナンスや戦略といった「MBA的な」ハードスキルの授業はほとんど記憶に残る授業に入っていなくて、アカデミックに振れたもの(統計、金融)と、フワッとしたもの(Behavioral Science、戦略とクリエイティビティ)が印象に残っていることがわかります。大学の価値は、究極的にはこういうエリアにあるのかもしれません。そして、理論や議論が好きな私の学びのスタイルに、アカデミックなシカゴのMBAは合っていたのだなあと感じます。学びのスタイルは、学校選びの基準のひとつでした。当時の選択は、間違っていなかったようですね。