『日本の人事は社風で決まる』

「日本の人事は社風で決まる」を読了しました。

日本の人事は社風で決まる---出世と左遷を決める暗黙知の正体

日本の人事は社風で決まる---出世と左遷を決める暗黙知の正体

銀行、セブンイレブン楽天などで人事関係の仕事を20年以上してきた著者が日本企業の人事について「語る」本です。本の冒頭が「大学を卒業して30年も経つと、もはやビジネスマンとして失うものはほとんどない」というフレーズから始まるためか、著者がかなりぶっちゃけてウンチクを書いてくださっています。この内容を1400円で教えていただけるとは、読書の投資対効果は素晴らしいと思いました。組織と人事に関心のある方は、サッと読めますので是非お手にとってみてはいかがでしょうか。

私は、社風は「その会社が何を良しとするか」で決まると思っています。そして、著者が本書で議論をしていますが、会社(に限らずある組織)が何を良しとするかは、「現在」を切り取ると顧客との関係やビジネスモデル(何が儲けを決するか)によるのかなと。しかし、会社は無から突然生まれるわけではないので、歴史(創業時に作られたカルチャー)と株主ないし社長(企業の究極の最終意思決定者)の強い影響を受けると整理しています。

本書の終わりで著者は「日本のサラリーマン生活にはそれなりの魅力があり、心のどこかで出世を夢見ているのだ」と書いていますが、私はこの記述は少なくとも現在の30代半ばよりも下の世代には当てはまりにくいと感じています。著者との認識の違いは、世代の差によるものと推測します。

私も、日本のサラリーマン生活にはそれなりに魅力があると思うのですが、その理由は「人間はあるコミュニティに所属することに安心感/喜びを見出すから」+「会社が面倒を見てくれるという安心感で何となくお金の心配をしなくていいから」という人間として非常に根源的な欲求(コミュニティへの帰属欲求+生存欲求)によるものだと思っています。簡単に言えば、毎朝職場に行って、見知った顔の人たちがいて、自分の部署以外にも多くの見知った人たちがいて仕事をする、かつその環境をしばらく先までは続けて行けることが「保証」されているという環境は、単純に心地よいということです。日本企業は、長期雇用によってコミュニティを作っています。

現代のアメリカ企業は短期で人が回転するので会社がコミュニティになりにくく、また現代においては常にクビというプレッシャーがかかっているので、自分の身を自分で守るために自分のキャリアを中心に考える必要があり、日本人のような「サラリーマン」という発想にはならないのかなと思っています。ただ、アメリカ企業においても社風が人の選抜をしているのは同じで、アメリカ企業は社風がミッションステートメントやビジョンとしてより明文化されているというのが私の理解です。

本書の中で時間軸という言葉が出ていますが、組織はビジネスの時間軸に合って形作られるべきで、ビジネスの時間軸と組織の時間軸が合っていないとその組織は破綻します。日本の会社は長い時間軸で組織と人を作りますが、現在において、その長い時間軸が求められるビジネスの数は、昔と比べて大きく減っているはずです。逆に、ビジネスと時間軸が合っていればその組織は人の時間軸が長くても問題なく、「変わらなくても良い」企業というものも存在するのだろうと感じています。